いただき物、捧げ物、三次パロ
1から見る
p
18)卯月さんから小説
- クリック
【午後12時は弁当の香り】
12時に近くの公園にて待つ。
そんな果たし状じみたメールに気が付いたのは、12時を少しばかり過ぎてしまった頃だった。
会議が長引いたのが原因である。
隼人は小さく溜息を吐くと、簡素に「今行く」とだけ返事を打った。
返信先の名は、流竜馬。
最近出会った複雑な縁である。
コートを羽織って外に出ると冷たい風が頬を叩いた。
吐く息が白い。
常人より頑丈な身体だと自負している隼人も流石に体を強張らせた。
この震えるような寒さの中、彼は待ち続けているのだろうか。
若干の申し訳なさを抱きつつ、ビルが立ち並ぶ街を歩いて行く 。
しばらくすると急に開けた空間が視界に飛び込んでくる。
さながら砂漠の中のオアシスのように、その公園は木々を生い茂らせて人工的なビル街に彩りを添えていた。
針葉樹さまさまである。
ジョギングをする者とすれ違いながら隼人は公園の敷地内に足を踏み入れ、キョロキョロと辺りを見渡しながら速度を落として歩く。
「竜馬……竜馬は……」
無闇に広い敷地なだけに探すのも一苦労。
せめてどの辺りで待っているのか明記しておいてくれたら良いものを。
まさかもう帰ったのではあるまいな、と隼人が疑心を抱いた時、彼の姿が見つかった。
備え付けの木製ベンチにふんぞりかえりながら、ジーンズのポケットに手を突っ込んでぼぉっとしている。
その横顔から白い息が 吐き出されるのを見て、隼人は少しだけドキリとした。
絵になる、と言えばそれは贔屓目でしかないのだろうが。
「すまん竜馬、遅くなった」
「おー、気にすんな。 詫びの品ぐらい受け取ってやっからさ」
こちらに視線を向けるなりそんな事を言ってニヤニヤと笑ってみせる。
こんな軽口を叩ける程度には気にしていないらしい。
それでも待っていてくれた事実は揺るがない。
今日の失態の詫びは後日どうにかするとして、とりあえず隼人は竜馬の隣に腰を下ろした。
冷えた木材の感触が尻から太ももにかけて広がる。
「竜馬、寒くないか?」
「俺は平気だ」
そう言う竜馬はTシャツにジャケットを羽織っているだけだった。
ジャケットのファスナーはとまっておらず、時折強い風が吹くと煽られて揺らめく。
まさかこのTシャツが半袖という事はないだろう。 頼むから長袖であってくれ。
隼人が内心でそんな事を思っているなんて知らないであろう竜馬は、脇に置いていた鞄から四角い箱を取り出した。
「何だそれは」
「昼飯。 まだ食ってねーだろ?」
そして得意げに笑う。
チェーン店の100円ショップで購入したようなビビッドカラーの弁当箱が凄くミスマッチに思えた。
自分にとっても、竜馬にとっても。
とは言え、嬉しい事に変わりはない。
多少なり緩んでいる頬を自覚しつつ、隼人は鮮やかな箱を箸と共に受け取る。
「有難く頂こう」
言い回しが固いんだよお前は、という竜馬の小言を受け流しながら蓋を開けた。
長方形の中は半分でくっきり分かれている。
半分は白米。 もう半分にはおかず。
和食中心に纏められた中身はよくよく隼人の事を理解されていた。
「……全部竜馬が作ったのか?」
「おう! 今日はバイトも休みで暇だったからな」
暇だからといって『弁当を作ろう!』という発想になる事が、隼人から見て不思議だった。
基本仕事人間の彼は相対的に家事業務を軽視している部分がある。
流竜馬もベクトルは違えど似た人種だと思っていたのだが。
……否。 そうであった筈だ。
ならば目の前の男の意識を変えたのは、
「……弁当箱見つめてねぇで早く食えよ」
自意識過剰な考えに浸っていたら呆れたような竜馬の声で我に返った。
軽く謝罪を入れて、箱と同じビビッドカラーのプラスチック箸で煮物を摘まむ。
多分椎茸だろうそれを口に運ぶと、じわりと煮汁が染み出した。
「……相変わらず美味いな」
「そうか? まぁ美味いならいいけどよ」
「あぁ。 本当に美味い」
少し冷たいのが残念な程に。
たまに作りに来てくれる夕飯と比べたらその辺りがマイナス要因であった。
しかし、『手作り弁当』という特別感がそれを補っている。
自分も一人の単純なオスなのだな、と内心で笑いながら鮭の切り身を丁寧に解していく。
こちらも焼き加減は隼人好みだ。
解し終えた身を口元に運ぼうとした時、隣からの妙な視線に気が付いた。
「あまり見つめられると食べにくいぞ?」
「え、あぁ、悪ぃ」
歯切れ悪く謝罪して、竜馬は大袈裟に視線を逸らした。
こちらを向いた頬がなんとなく赤い気がする。
気のせいかもしれないし、寒さのせいかもしれない。
白い息が風に流されて赤い頬に映える。
「竜馬」
横顔に声をかけ ると、すぐに竜馬は振り向いた。
吐き出される白い息を遮る様に、隼人は箸で摘まんでいた鮭を突っ込む。
「ぅむぐ!」と声になってない音が竜馬から漏れた。
恨めしそうな目を向けながら、モグモグと咀嚼している。
そしてゴクリと飲み込んで、即口を開いた。
「何すんだ!」
「熱心に見つめていたからな。 食べたかったのだろう」
「へっ、あ、あぁ、まぁ」
ポカンとした表情を浮かべたかと思うと、歯切れ悪そうに肯定して、竜馬はまた視線を逸らした。
顔が赤い。 やはり気のせいではないだろう。
ただその理由が分からず、 隼人は首を傾げつつ解した鮭を摘まむ。
口に含んでさらに噛み解すと、旨味成分が口内へ広がった。
それは、先程よりも強い感覚。
「なぁ、隼人」
そんな事を思った瞬間、話しかけられた。
行儀が悪いと知りつつ、「何だ」ともごもご返事をする。
「美味いか?」
「さっきも言っただろう。 美味い」
「お前さえ良けりゃ、また作ってやっても良いぜ」
視線を空に向けて白い息を吐きながら、竜馬ははっきりそう言った。
しかし隼人は、
「いや、いい」
と断った。
当然竜馬は不服そうな顔をしてみせる。
何か言おうとする前に隼人は続けざまに言葉を繋げる。
「作ってくれると言うなら2人分だな」
「何?」
「今さっきお前に鮭を食べさせた時に思った。 やはりお前と一緒に食事をした方が美味い」
先程感じた『より強い旨味』はそういう事なのだろう、と1人納得しながら白米を口に運ぶ。
「もちろん、お前が嫌なら構わん。 2人分作る方が大変だろうからな」
「……夕飯」
「ん?」
「夕飯、何が良いよ?」
白い息を風に流しながら、竜馬は話の流れを無視した問いを口にした。
だが、そこに隠された流れを読めない隼人では無い。
ニュアンスを汲み取れるくらいには一緒に居るつもりだ。
煮物を口にしながら隼人は答える。
「お前が作るなら何でも良い」
「それが一番困るんだよ、ばぁか」
そう言いながらも、竜馬の顔は嬉しそうに緩んでいる。
相変わらず、赤い頬に白い息が映えて映った。
17)輝雄さんから小説
- クリック
今日は定時で仕事を上がってこい、とやけに偉そうで自信たっぷりな物言いを放ったのは共に暮らしている竜馬だった。
一緒に暮らしている、というよりも……正確に言うならば自分が無理やり自宅に引っ張り込んだようなモノだ。
と、ほんの少しだけ昔となった日を思い出し、隼人は僅かに苦笑を零しながら竜馬に返事を返した。
なんで定時なんだ?と尋ねると、
今日は豚肉が安いから旨い飯を食わせてやるのだと言いながら胸を張って広告のチラシを見せつけてきた。
竜馬らしい、と隼人が笑うと
顔を赤らめながらも楽しみにしてろよ、と広告をもう一度広げて赤い丸が付けられた豚肉の欄を竜馬は指差した。
それにもう一度だけ笑うと、隼人は出勤の支度にとりかかった。
ネクタイを整え、鞄を片手に持ち玄関に向かうと、竜馬が寝間着に素足のままその後ろをついてきた。
「行ってくる」
「おう。行ってらっしゃい。早く帰ってこいよ!」
「あぁ、分かった。楽しみにしてる」
その返答に満足した表情を浮かべる竜馬の見送りを受けて隼人は玄関から出て行った。
道に出るとすでに冬へとなりつつある秋の朝がそこにはあった。
未だ手袋をつけていない隼人の手は寒さを感じた。
もう冬が近いのか、と隼人はぼぉと考えながら寒さから逃げる様に、両手をコートのポケットに突っ込んだ。
そして、隼人は本日の業務に想いを馳せた。
竜馬の要望通り、今日は定時で上がれるだろう。
ちょうど、案件と案件の谷間でそう忙しくは無かったはずだ。
早く帰る事は無理だろうが、定時に上がるのはそう難しくないだろう。
ならば……。
普段、素直にならない奴を少しばかり甘やかすのもいいかもしれない、と隼人は僅かに頬を弛めた。
定時で上がれそうだ、と事前にメールを入れておいたとは言え……。
と、言葉にはしないまでも玄関で出迎えを受けた隼人は嬉しさが湧きあがると同時に呆れが混じった。
普段も、こう可愛ければどんなにか嬉しい事かと思いながら、
まるで尻尾が生えているかのように喜んでいる竜馬の頭を一撫でしてリビングに通じる道を開けさせた。
「本当に定時に帰って来たんだな!」
喜びを前面に出した言葉を発した竜馬の愛しさに僅かに眩暈を覚えながらも、隼人はぐっ、と堪えた。
まだ、早いはずだ、と。
「まぁ、たまには早く帰るのも悪くないだろ」
「お前は働きすぎなんだよ」
「そうかもな」
「おう!」
なんでお前が自信たっぷりなんだと突っ込むと、にしし、と竜馬は面白そうに笑ってきた。
隼人は、普段と変わりなくリビングのソファーの上に鞄を置くと背広をその上に脱ぎ捨てた。
そして竜馬もまた普段と変わりなく隼人が脱いだ背広を拾い上げると、寝室のクローゼットにかけにいった。
別に皺になっても構わないと隼人は思っていたのだが、竜馬は違ったようで
せっかく良いモンを着ているんだから大事にしろと小言を呟きながらいつも隼人の背広をハンガーにかけていた。
背広をクローゼットにかけていた竜馬は思い出したようにリビングに居るであろう隼人に話しかけた。
「隼人ー。飯と風呂、どっちが先がいいんだ?」
普段は隼人の帰宅が遅いため、隼人が入浴している間に夕食の準備をする竜馬だったが、
今日は随分と早い時間の帰宅の為かわざわざ選択肢を用意して隼人に尋ねてきたようだった。
「……、後でどうせ入るだろうからな……」
ぼそり、と呟いた隼人の言葉は、未だ寝室に居る竜馬の耳にはどうやら届かなかったようで
戻って来た竜馬は、で?と隼人に柔和な表情を向けて再度尋ねた。
「飯にしよう」
「おう、じゃぁ、少し待ってろよ」
「あぁ」
竜馬がキッチンへと向かうのを見守りながら隼人はソファーの上に置いた鞄の裏、白い化粧箱の存在を確かめた。
ドライアイスは三時間分入れてもらった。
大丈夫だろう、と隼人は一つ頷きながら鼻歌まじりで料理を準備し始める竜馬の後姿を眺めた。
どうやら気付いていないようで安堵の息を吐いた。
いくら鞄の影に隠していたとはいえ……気づくだろうと思っていたが……
どうやら隼人が早くに帰ってきた事のほうが嬉しくそれどころでは無かったようだった。
何時出そうか。
竜馬が頑張って作ってくれた料理の、その後。
酒の追加を頼んで、その時。
あぁ、皿とフォークが必要だろう。
若干浮かれた思考のまま、隼人はキッチンに立つ竜馬の元へと近づいた。
「竜馬、手伝うよ」
「え、いらねぇよ!俺一人で十分だし……お前は座ってろよ!」
しっ、しっ、と手で追い払われるようにされればさすがの隼人と言えど傷つくというモノだったが、
そこは目的達成の為に食い下がる事を選んだ。
「一緒に用意したいんだ」
すっ、と腰に手を添えて自分の方を振り向かせ、俗にいうイイ雰囲気に持って行こうとしたが、
依然機嫌の良い竜馬に色仕掛けじみた事が通じるはずも無く、
「そこまで言うなら仕方ねぇなぁ……ほら、そこの肉、皿に盛って、んで、箸とか持って行けな」
あそこの棚に皿入ってるから、と指差されたが元々は自分の部屋であるのに
皿がしまわれている棚の一つも知らぬわけが無かろうというツッコミを飲み込み、
隼人は目的の小さな皿と小さなフォークとついでに肉の盛られた大皿を手に入れたのだった。
「あ、隼人ー。肉置いたら、これもなー」
一つ手伝うと遠慮なく次はこれ、その次はこれ、と言うようにテキパキと指示を出す竜馬に隼人は黙って従った。
別に、手伝うのは不快では無かったが、手伝った回数は心の中で数えていた。
その分だけ後で褒美をもらうのも悪くないだろう、と竜馬が聞いたら眉根を寄せるであろう事をひっそりと考えていた。
あと、三時間以内には竜馬のもっと喜ぶ顔が見えるのだろう、と考えながら隼人は竜馬の後姿を眺めた。
Merry Dinner
「お前、さ……」
片手で顔を押さえながらも、隠せなかったのであろう赤く染まった目が一つの感情を物語る。
「ほんっと……」
続く言葉は、そっと舌の上に甘く溶けた。
-----------------------------------------------------------------------------------
2013.11.11
あびしさんお誕生日おめでとうございますー!!!
リーマンパロ、隼人の草臥れた背広が残念可愛くて好きです|ω・´*)