一周年お祝い小説!

バタフライエフェクトの卯月さんより1周年お祝い小説いただきました.。゚+.(・∀・)゚+.゚
続きよりUPさせていただきます~vvv

こっちくんな!って叫ぶ竜馬さんのとこ読み返したり思い出したりしちゃあぐふ…グフフフ☆って奇声的な笑い発してるわけですよこれが。ありがとうございました!

【それでも、×してる】

何故あの時自分は拳銃を手放してしまったのだろうか。
竜馬は自室にて包帯に巻かれた自分の手を見つめながら考える。
この手が『こう』なったのは巡り巡って『あの男』の所為だ。
かつて心も体も通わせた、大事だった人。
今は、殺してやりたい人。
俺を殺りたいのなら好きにさせてやる
本人もそう言ったのだ。
何を躊躇う必要があるのだろう。
安全装置を外して引き金に指をかけて照準を合わせて引けば良かったのに。
しかし竜馬の右手はそれを拒んだ。
「………殺したい、殺したい」
憎い相手の顔を思い出しながらぶつぶつと恨み言を呟く。
その恨み言すらただの願望でしか表に出す事が出来ない。
「殺してやる」と断言が出来ず、竜馬はチッと一つ舌を打つ。
ぐるぐると、もやもやと、胸の内を渦巻く思いは竜馬を内側から圧迫し、地球へ戻って来てからは加速しているかの様に息苦しさを与えていた。
夜も満足に寝れない。
いや、それは前々からもあまり変わっていないけれども。
「…………はぁ」
息を吐いても息苦しさからは解放されない。
竜馬は徐に腰を上げると、重い足を引きずって外へ出る。
現在は草木も眠るなどと称される頃合いなので必要最低限の人員だけを割いており、タワー内居住区はしんと静まり返っている。
弁慶達も寝ているのだろうか。
あの男はどうしているだろう。
ふと過る歳を取った顔を掻き消す様に竜馬は頭を振り、あても無く歩を進め始めた。
道中誰とも出会わなかったが、むしろその方が都合が良い。
人は苦手だ。
この傷を負ってからは。
「…………ん?
何だ?」
ぶらぶらと歩き続けた先で竜馬の意識が動かされる。
漠然とした予感に引き寄せられるように歩いて行った先にあったのは、スーパーロボット軍団が並び立つ格納庫であった。
もちろん真ゲッターや竜馬が乗って来たブラックゲッターもここに置かれている。
真っ暗闇の中、竜馬の視線はその2機に釘付けにさせられた。
ぼんやりと淡く輝く緑色に。
「ゲッター線、か」
あまり知られていない事だが、ゲッターロボは夜になるとゲッター線を外部へ放出する事がある。
その為試作品も無闇に処分する事が出来ずに研究所の地下で厳重に保管されていたのを竜馬は覚えている。
月にあったゲッターロボにも同じ事が見られたので、スクラップになってもそれは変わらないらしい。
放出されていくゲッター線を眺めながら、竜馬はやはり舌を打った。
あまり気分の良い光景ではない。
これ以上ここに居る意味も見いだせないので踵を返した竜馬は、その目を見開く事になる。
「こんな所で何をしているんだ、竜馬」
本来居る筈の無い自分を見ても驚く事無く冷静に問うその姿。
昔よりも遥かに迫力が増したその眼光に射抜かれて、竜馬はごくりと唾を飲み込んだ。
名前を呼ぼうと口を開いたが声が出ない。
「いつ襲撃があるか分からん。
休める時に休んでおけ」
「……おう」
「…………どうかしたのか?」
先程より少し柔らかい口調で問いかけながら、その男はこちらへと近づいて来た。
「来んな!」
「っ!?」
「来んじゃねぇ、隼人!」
ようやく口に出来た名前は拒絶の意味を孕んでいた。
それで良い筈なのに、何故か胸の奥が痛む。
流石に驚きを表に出した様子の隼人は絶句しながらその場に留まっていた。
今なら彼の前から逃げ出せる。
だというのに竜馬の足も動かない。
睨み合う様な硬直状態が続いていたが、それを破ったのは隼人の方であった。
「……お前、本当は俺を殺したいんじゃないのか」
「たりめぇだろ……」
「なら、どうして銃を返した」
疑問を呈しながら隼人は懐に手を差し入れ、再会した日に竜馬が返した拳銃を取り出してみせる。
「それ、は」
「お前の気が済むなら殺しても構わんと言っただろう」
そう言って下手投げで放り投げてきた拳銃はピンポイントで竜馬の前に落下した。
ゲッター線を反射して鈍い緑色に光るそれを見て、竜馬は顔を顰める。
「お前は、死にてぇのかよ」
「そういう訳では無いが……そうされて仕方の無い事をした自覚はある」
「だから、死にたいんだろ」
「……そう思いたいなら、そう思ってくれ」
既に表情を取り繕った隼人は、いつもの冷静な顔つきで竜馬に言い放つ。
その態度に竜馬の胸の奥はチリついて仕方が無い。
内側から壊されかねない痛みに苛ついて、足下に落ちた拳銃を片手で拾い上げて銃口を隼人へ向ける。
「今ここで俺が殺しても、後悔しねぇんだな!」
隼人は答えない。
ただ静かに、竜馬の前に佇んでいる。
「しねぇ、んだな!」
照準を額に合わせる。
このまま眉間を撃ち抜けば彼は死ぬ。(何で抵抗しねぇんだ)
照準を胸に合わせる。
このまま心臓を撃ち抜けば彼は死ぬ。(何で俺を受け入れるんだ)
安全装置をカチリと外す。
このまま引き金を引けば彼は死ぬ。(何で、こんなにも)
「隼人ぉ……っ」
震え始めた照準を支える為に空いていた左手を添える。
それでも尚微弱に震える銃口の意味が竜馬には分からなかった。
振動でカチャカチャと鳴る己の鎖が耳障りで仕方が無い。
この鎖が自分の手首にあるのは誰の所為だ。
目の前の男の所為じゃないのか。
「隼人ぉぉぉ!!」
竜馬が叫び、銃声が響く。
隼人の体は床に向かって倒れた。
「……りょう、ま」
隼人が苦しげに声を漏らす。
拳銃を投げ捨てて自分に体当たりを喰らわせた男の名を呼ぶ。
そんな倒れたままの彼の上に跨がり、力一杯襟を掴みながら竜馬は唇を震わせていた。
「くそ……くそぉ……」
嘆く様な呻きを竜馬が漏らしたのとほぼ同時に、緑色に輝いてた空間が闇に閉ざされた。
ゲッター線の排出が終わったのだろう。
譫言の様に「くそっ」と呟き続ける竜馬に対し、隼人は何も返さずにされるがままになっていた。
投げ捨てた際に暴発した火薬の臭いが鼻腔をくすぐる。
「何故、何故だ!
俺はお前が憎い! 憎くて憎くてしょうがねぇハズなのに!!」
突如竜馬は声を荒げ、掴んだままの襟を激しく揺さぶる。
やはり隼人は何も言わない。
言えなかった、というのも正しいのかもしれない。
この暗闇の所為で竜馬自身は気付いていないが、隼人の頬にはいくつかの水滴が落下していた。
「どうして、どうして、『殺したくない』と思っちまうんだ……っ」
流竜馬は泣いていた。
隼人の上に跨がりながら、静かに涙だけを流し続けている。
「隼人、隼人、はや」
竜馬の声は、抱きしめられた際に隼人の肩口に埋もれた。
優しく頭を撫でる手の感触が居心地悪くも心地よい。
それは、長らく忘れていた感覚。
「竜馬、本当にすまなかった」
竜馬にとっては3年ぶりに聞くその言葉は、あの当時よりも竜馬の心に刺さった。
謝ってもらった所で過去が消える訳ではないのに。
過去は、消える訳では、ない。
そう、消えない。
「お前が考えて納得した上で俺を殺したいのならば好きにしたら良い。
俺はそれを受け入れよう……だが、そこに迷いがあるのなら、考え続けろ」
俺が言えた事では無いが、と隼人は喉を鳴らすように自嘲した。
そして、また言葉を続ける。
「お前が答えを出すその日まで俺は待ち続けよう。
それがどんな答えでも、どれだけの時間がかかろうとも。
なに、
13
年待ったんだ、あと何年加算されようが大した差じゃない」
それが嘘であって嘘でない事に竜馬は薄々感づいた。
大した差ではない、というのは嘘だ。
13年の時間の流れは隼人にとってとても大きな空白だったのだから。
待ち続ける、というのは本当だ。
例えば竜馬が生を全うするまで答えを出せなかったとしても隼人はじっと待つだろう。
そういう奴だ。
神隼人という男は。
分かっている。
誰よりも分かっている。
分かってしまっている。
「それまで俺は死なない。
この命は、お前の物だ」
だから隼人もこんな事を言うのだ。
竜馬の事を一番分かっている隼人だからこそ、竜馬が求める物を提示してみせる。
理解されてしまっているのだという事に対し、不思議と嫌悪感は無かった。
それもそのハズだ。
だって、竜馬は、それでも―――。
「…………隼人」
「何だ」
「死ぬんじゃねぇぞ、絶対な」
お前を“殺す”のは俺なんだ。
そう肩口で籠る声で言うと、隼人は少し嬉しそうに「あぁ」と返事をした。
その間も竜馬の体は抱きとめられていて、髪を愛おしげに撫でられ続けている。
懐かしい感覚と人肌の温もりに、もやもやとした竜馬の心が融かされて行く。
静かな静寂に飲み込まれる様に竜馬は目を閉じて力を抜いた。
溜まっていた涙がまた一雫零れる。
「……はやと」
色々な物が綯い交ぜになった感情で吐き出した名前は思いのほか穏やかで。
それを最後に竜馬の意識はすとんと落ちた。
久々に味わう『安眠』という現象だった。

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